nul@gim

ストーリー

温泉

私は今年で十八になる。書生という身分は、世間の風波(ふうは)をよそに、古びた書物と格闘していれば済む気楽な稼業(かぎ業)に見えるやも知れぬが、その実、内面は得体の知れぬ焦燥に焼かれているものである。胃弱を患うのも無理はない。叔父の勧めもあり...
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猫の一日

わが家の猫は、どうも身の処し方がきっぱりとしている。朝、障子の桟(さん)を薄桃色の光がなぞる頃、奴はもう起きている。こちらが布団の中でぐずぐずと、昨日の疲れがどうの、今日の手配がどうのと、とりとめもない算段を巡らせている傍らで、猫はただ、坐...
オピニオン

総理

鉄鉢(かなぱち)の中にも、時代の風。どこまでも青い空を、千切れた雲が急ぎ足で過ぎていく。私の足も、それにつられて少しばかり速くなる。世の中は、ずいぶんと賑やかになったものだ。町の電器屋の店先に並ぶ薄い箱の中では、一人の女が凛とした声で語り続...
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掃除する社長

僕がこれまでにいくつかの工場を管理してきて学んだのは、管理という行為が、教科書に書かれた数式のようなものではないということだ。それはむしろ、長い年月をかけて皮膚に馴染んでいく古い上着のようなものだ。理屈じゃない。現場の泥にまみれ、機械の油に...
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「お局」と呼ばれるドンの存在

・組織の「影」について ― お局という意匠直接に会社を壊そうなどという野心はない。しかし、背後から音も立てずに組織の体裁を崩していくのが、いわゆる「お局」という存在だ。彼女らは、会社全体を見渡しはしない。ただ、自分の手が届く狭い領土に、強烈...
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コンビニ

おれは今、コンビニエンスストアという名の、いかがわしい箱の中にいる。夜半だ。夜半としか言いようがない。時刻は日付変更線の一歩手前、午前零時を三十分ばかり越えた、まさに「夜半」である。 この箱は、光に満ちている。蛍光灯の白々しい光が、天井から...
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2代目はダメなのか?

私はYouTubeを毎日欠かさず見ている。帰宅してPCの電源を入れ、使い慣れたFirefoxを立ち上げたら、まずはYouTubeを開くのが日課だ。資格取得の際も随分世話になった。「危険物乙4」や「毒物劇物」の資格が取れたのは、YouTube...
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正座

葬儀の日其の日は、湿り気を帯びた空気が堂内に停滞し、線香の燻る香が、生者と死者の境界を曖昧にするかの如く漂うていた。予は、故人への最後の手向けとして、畳の上に端座し、微動だにせぬことを自らに課したのである。始めの内こそ、背筋を伸ばし、粛然た...
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雪化粧

或る日の暮方(くれがた)である。 空は朝から、まるで生温かい石灰の粉をぶちまけたような、縹(はなだ)色の憂鬱に沈んでいた。それが午後を過ぎる頃から、一点の容赦もなく、地上の一切を塗り潰しにかかったのである。 雪は、ただ美しいという訳には行か...
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雪景色

寒に入りてより、日の光も心なしか痩せ細り、万物はその生彩を失いゆくかに見ゆ。朝な夕な、窓辺に立ちて外を眺むれば、庭には昨夜来の雪が薄く積もり、すべてを鉛色に塗り潰したる如し。かの常磐木も、今はただ黒き塊として佇み、その枝々に残れる雪は、さな...