困った上司

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中国に駐在していた頃、私は賄い付きの5LDKマンションに住んでいた。日本なら大家族向けの広々とした間取りだが、それを一人で使うとなると「いいだろう」なんて思う人はいないだろう。広すぎて持て余すし、使わない部屋がいくつもあっても仕方がない。実際にはこの間取りを4人の駐在員でシェアしていた。部屋は一つ余っていたが、それは出張者用に確保されていた。当時は日本から会長や常務が時々訪れていたからだ。

私が中国に来たのは、工場長が交代したタイミングでサポート役を。中国語が多少できるという理由で選ばれた。資格を持っているわけではないが、北京で生活していた経験があり、日常会話程度ならこなせる。もっとも、言葉は現地にいるだけでは身につかない。やはりテキストを開いて勉強しなければ話せるようにはならない。当たり前のことだが、意外とできていない人が多い。日本に帰ってきても、人事が「なんとなく」採用した外国人の日本語レベルを見て驚かされる。20年も日本に住んでいるのに片言すらおぼつかない人が結構いるのだ。特に南米出身者に多い。はっきり言えばブラジル人だ。もちろん意識の高い人は勉強しているが、それにしてもそのギャップは大きい。

さて、私たちの工場はプラスチック工場で、寮は工場から少し離れている。とはいえ通勤は15分程度。帰りは全員で寮に戻るのが習慣だった。ところが途中から加わった“薫事”だけは別行動。彼は寮ではなく、少し離れた場所で一人暮らしをしていた。最初は「薫事の家でメイドに食事を作らせるか」という案も出たが、煩わしいので結局寮でまとめて料理し、皆で食べることにした。

薫事も食事には参加する。しかし問題はここからだ。彼は大の酒好きで、私たちが仕事を終えて寮に戻る頃には、すでにベロベロに出来上がっている。酒代もメイドに渡しているので、実質タダ酒。つまり「ただ酒飲みの薫事」である。そんな人間が好かれるはずもない。案の定、みんなから思いっきり嫌われていた。

嫌われ者の薫事は、夕方仕事で疲れて帰ってきた私たちに、軽快な会話を楽しむ余裕も与えない。可愛い工員の話題で盛り上がっていると、「あの子はビッチだ」「体がくさい」などと下品なコメントを挟み、酔った勢いで説教を垂れてくる。これがまた長い。最初は1時間程度で終わっていたが、次第にエスカレートし、気づけば深夜0時を過ぎるようになった。翌日の仕事に差し支えるのは当然。まさに最悪の半同居人である。

薫事の説教は、内容が薄いくせに妙に熱がこもっている。酒の勢いで声は大きく、話は堂々巡り。こちらが「もう寝たい」と思ってもお構いなし。まるで酔っ払いの拷問だ。誰もが心の中で「頼むから黙ってくれ」と叫んでいた。彼の存在は寮の空気を重苦しくし、皆のストレスの原因となっていた。嫌われ度合いは右肩上がり、もはや「嫌われ指数100%」と言っても過言ではない。

そこで私たちは、ついに「ちょっとした作戦」を考えた。薫事の説教タイムをいかに短縮し、翌日の仕事に支障を出さないように、要は「薫事をいかに上手くかわすか」という知恵比べだった。彼の嫌われっぷりは、もはや一人の人間としてではなく「寮生活の障害物」として認識されていたのだ。

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