まあ、こんな老害(薫事)と一緒に飯なんて食べたくないから、私たちは自然と席を立つ。何とか角を立てずに対応しようとするが、結局この老害は寮で飲んだくれて、ほぼ毎晩のように酩酊してからアパートに帰る。そのタイミングを待って、私たちはようやく帰宅するのだ。早く帰りたい気持ちは山々だが、先に帰って老害に絡まれるのは地獄そのもの。いたたまれないどころか、精神的に拷問に近い。はっきり言って、この老害は会社のためになっていない。むしろ害悪そのものだ。
ところが、この老害にはさらに厄介な裏事情がある。実は、不良品の流出を食い止める使命を会長から直々に受け、中国に送り込まれた“刺客”なのだ。会社の救世主どころか、酒臭い破壊神を送り込んだようなものだ。始末が悪いにも程がある。
当時、品物をお客さんに納品していたが、問題になっていたのは不良品の多さだった。社内の品質管理が徹底されていないため、客先に不良品が流れ込んでしまう。そこで我々が講じた策は「受け入れ検査の強化」。つまり、お客さんの倉庫に入る前に検査を行うというものだ。しかし、検査に回せる人材は少なく、お客さんの工場まで距離があるため、検査員を自宅に帰すことが難しくなっていた。
中国の工場労働者の多くは地方出身である。新疆ウイグル地区から来ている女の子もいた。工場は広東省東莞市にあり、彼女たちの故郷からは途方もなく遠い。受け入れ検査員を送り迎えできる時間に業務が終わればいいが、毎日そう都合よくはいかない。検査員は大抵20代前半の若い女性ばかり。出張先のホテルに泊まらせるのも心配だし、彼女たちはお金を持ち合わせていないことが多い。客先で何かあれば、食事すら我慢させる羽目になる。まさに気の毒そのものだ。彼女たちは会社のために汗を流しているのに、待遇は脆弱で、守られるべき存在なのに守られていない。
不良品の流出を食い止めるため、我々は手を尽くしていた。しかし、限界は近づいていた。そこで投入されたのが、この飲んだくれ老害である。後で聞いた話によれば、会長から「しこたま酒を飲ませてやるから、改善してこい」と言われたらしい。まるで酔拳の使い手でも期待しているのか。だが現実は、酒に溺れた老害が現場をかき乱すだけだった。
この老害が考えたことは、改善でも改革でもなく、ただ自分の酒欲を満たすこと。検査員たちが必死に不良品を見つけ、疲れ切った顔で帰りを待っているその横で、老害は赤ら顔で「俺が刺客だ」と豪語しながら酒をあおる。まるで悪役の見本市だ。検査員たちの気の毒さは増すばかり。彼女たちは不安と疲労に押し潰されそうになりながらも、老害の存在にさらに追い打ちをかけられていた。
結局、この老害は会社のために送り込まれたはずなのに、現場ではただの迷惑者。検査員たちの努力を踏みにじり、若い女性たちの不安を増幅させ、酒臭い息で周囲を汚染する。まさに「老害」という言葉の具現化である。会社の未来を守るどころか、現場の士気を削り取る存在。検査員の気の毒さを思えば思うほど、この老害の罪深さが際立つのだ。



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