老害(薫事ね。)が社内で打ち出した不良対策――それは「品質の水準を高くする」こと、そして「検査の回数を増やす」ことでした。聞こえだけは立派で、いかにも「俺は改革者だ」と言わんばかりのポーズ。しかし実際には、最もやってはならない禁じ手を堂々と繰り出したのです。まさに“悪手の二連発”。これぞ老害の真骨頂といえるでしょう。
・品質の基準を高くした
当初は「品質を上げるのは良いことだ」と社内も一瞬は納得しました。ところが、次第に不良品が社内倉庫に積み上がり、まるで不良在庫の山脈が形成されていく始末。歩留まりが下がることは予測されていたのに、老害は「まあ何とかなるだろう」と酒臭い鼻息で押し切ったのです。その結果、現場は予定数を仕上げるのに手間取り、次の製品に移る作業が遅れ、出荷は慢性的に遅滞。お客からの信頼は揺らぎ、現場の士気は地の底へ。まさに「品質を上げる」と言いながら、会社の信用を下げるという逆転劇を演じてしまったのです。
・検査の回数を増やした
さらに老害は「検査を増やせば安心だろう」と短絡的に考えました。しかし検査を増やせば検査の質は落ちる。これは業界の常識です。検査員全員が高いレベルならまだしも、経験の浅い検査員が混じれば、良品さえ不良品と判定する恐れがある。つまり「検査を増やす=不良品を増やす」という皮肉な構図が生まれるのです。
日本では検査員にランク付けする企業はほとんどありませんが、海外ではランク制度を導入して検査技術を向上させていました。新入社員はDランク、半年経てば自動的にC、その上は実力次第でB、Aへ。特殊能力を持つ検査員はSランク。Bランクも-B、B、+Bに分かれ、Aも同様。Sランクともなれば、光度計で測らなければ分からない僅かな光の差を肉眼で判別できるという、まさに人間顕微鏡のような存在です。こうした仕組みがあれば検査の精度は上がるのですが、老害はそんな知見を持たず、ただ「数を増やせばいい」と思考停止。結果、検査員は「どうせ後で誰かが検査するだろう」と手を抜くようになり、現場は混乱しました。
・結果として
確かに不良品の流出は減りました。しかしその代償はあまりにも大きかった。不良在庫は雪だるま式に膨れ上がり、倉庫は不良品の墓場と化す。売り上げは一時的に増えたものの、利益は消え失せ、会社は赤字に転落。まるで「不良品を守るために会社を潰す」という逆説的な喜劇。いや、喜劇ではなく悲劇です。
半年後、ついに会長も堪忍袋の緒が切れました。「酒ばかり飲んで現場を混乱させる老害を、これ以上放置できない」と判断し、老害は社内から強制送還。まるで失敗したスパイが本国に呼び戻されるように、肩を落として帰っていきました。残されたのは、不良在庫の山と疲弊した検査員、そして「老害の悪手は二度と繰り返すまい」という現場の深いため息だけでした。


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