温子(おんこ)

ストーリー

静かな山あいの宿での出来事でございます。
深い谷底の、岩の間からぽこぽこと湧き出る熱いお湯の中で、一人の娘が目を覚ましました。娘の名は「温子(おんこ)」と申します。彼女はそれはそれは透き通るような白い肌をしておりましたが、その肌は赤ん坊の頬よりも柔らかく、指で触れればぷるんと震える、はかない存在でございました。温子は、自分がいつか「特別なお役目」を果たすために、この熱い揺りかごで大切に育てられてきたことを知っておりました。彼女の心の中には、黄金色に輝く大きなお月様のような、とろりとした情熱が秘められていたのです。


ある晩のこと、温子は小さな小鉢にのせられて、一軒の座敷へと運ばれました。そこには、二十二歳になったばかりという、目の覚めるような美しいお姉さんが座っておりました。
お姉さんの唇は、熟した野いちごのように赤く、湿っています。彼女がふう、と溜息をつくと、春の夜風のような香りが部屋に満ちました。お姉さんは、箸の先で温子の薄い衣を、そっと、優しくつつきました。
「あら、なんて可愛らしい子」
お姉さんの声は、銀の鈴を転がしたような響きでした。温子は嬉しくて、その柔らかな体をフルフルと震わせました。やがて、お姉さんは小さな匙(さじ)で、温子をそっと掬い上げたのです。
温子の冒険が始まりました。お姉さんの唇に触れた瞬間、温子は今まで感じたこともないような、甘やかな熱に包まれました。そこは、桃色のベルベットでできた、不思議な洞窟のような場所でした。温子を待ち構えていたのは、しなやかに動く、温かくて湿った「舌」という名の生き物です。舌は、温子の白い肌を優しく、時にはねっとりと、上から下へと撫で上げました。
「くすぐったいわ、でも、なんて気持ちがいいのでしょう」
 温子は、自分が少しずつ溶けていくのを感じました。お姉さんの舌は、まるで温子と踊りを踊るかのように、右へ、左へと転がします。温子の中心にある黄金のお月様が、その刺激に耐えかねて、ついにトロリと溢れ出しました。濃厚な、黄金色の蜜が、お姉さんの口いっぱいに広がります。舌はそれを逃さぬよう、温子のすべてを絡め取り、隅々まで慈しむように弄ぶのでした。温子は、自分という存在がお姉さんの体の一部になっていくことに、言いようのない悦びを感じておりました。
「さようなら、温子」
お姉さんが喉の奥で、小さく「くくん」と音を立てました。
 すると、温子は滑らかな滑り台を滑り落ちるように、お姉さんの細い喉へと吸い込まれていきました。そこは暗くて、とても温かい場所でした。喉を通る瞬間、温子は最後の一滴までお姉さんの粘膜に愛撫されながら、深い、深い、身体の奥底へと運ばれていきました。それは、冷たい雪が春の陽だまりに溶けて土に還るような、あまりにも静かで、満ち足りた最期でございました。
お姉さんは満足げにふうと息を吐き、紅をひき直した唇をぺろりと舐めました。
 小さな小鉢には、もう誰もおりません。ただ、春の夜の月だけが、窓の外で黄金色に笑っているのでございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました