ストーリー

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中国留学(宿友との出会い)

記憶の石畳、あるいはハルビンの風に吹かれて窓外に広がる北京の空は、いつもどこか薄汚れた羊の毛を思わせる、不透明な灰色に沈んでいた。私はその停滞した空気のなかで、茶碗の底に沈殿する茶葉を眺めるように、自らの語学力の頼りなさを反芻していたのであ...
ストーリー

温子(おんこ)

静かな山あいの宿での出来事でございます。深い谷底の、岩の間からぽこぽこと湧き出る熱いお湯の中で、一人の娘が目を覚ましました。娘の名は「温子(おんこ)」と申します。彼女はそれはそれは透き通るような白い肌をしておりましたが、その肌は赤ん坊の頬よ...
ストーリー

≪飯テロ≫

伊藤: どうもー、オニギリマンです。お願いします。いやー、最近ネットでよく見かけるじゃないですか。「飯テロ」って言葉。富山: ……ちょっと何言ってるか分からない。伊藤: 分かんだろ! 有名な言葉だよ。夜中においしそうな食べ物の画像をアップし...
ストーリー

スキップ

あろうことか、昨日の夕暮れ、誰もいない並木道で「スキップ」などという、およそ人間に許された最も軽薄で、かつ最も幸福な身振りを試みたのであります。そもそも、スキップとは何事でしょう。歩くという、あの峻厳な自己規律の一歩一歩の間に、ふいと「無意...
ストーリー

温泉

私は今年で十八になる。書生という身分は、世間の風波(ふうは)をよそに、古びた書物と格闘していれば済む気楽な稼業(かぎ業)に見えるやも知れぬが、その実、内面は得体の知れぬ焦燥に焼かれているものである。胃弱を患うのも無理はない。叔父の勧めもあり...
オピニオン

総理

鉄鉢(かなぱち)の中にも、時代の風。どこまでも青い空を、千切れた雲が急ぎ足で過ぎていく。私の足も、それにつられて少しばかり速くなる。世の中は、ずいぶんと賑やかになったものだ。町の電器屋の店先に並ぶ薄い箱の中では、一人の女が凛とした声で語り続...