【漫才】「ライスカレーの福神漬けが夕日に見えて拝みたくなる」名コンビ『替玉・九蔵』

お笑い

「皆様、大変お待たせいたしました。続いてのご登場は、上方漫才界が誇る名コンビ、芦乃家雁玉・林田十郎の芸風を彷彿とさせる一席でございます。
着物姿で粋に構える替玉と、格子柄のスーツで軽快にボケる九蔵。二人が繰り広げるのは、誰もが胸を躍らせたあの『デパートの屋上』。
どこか懐かしく、そして温かい名人芸の味わいを、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。
それでは参りましょう、『替玉・九蔵』決定版! 大きな拍手でお迎えください!」

漫才:デパートの屋上(替玉・九蔵 決定版)
(舞台中央にマイク。替玉は着物に袴、九蔵は格子柄のスーツで登場)
替玉:えー、毎度馬鹿々々しいお笑いを。しかし九蔵君、近頃の大阪はえらい活気ですな。特に御堂筋を歩いとりますと、あの大建築、百貨店(デパートメント)の威容には圧倒されますわ。
九蔵:ホンマですなぁ。あんな高い建物、天袋を覗くどころか、お月さんと内緒話ができそうですわ。エヘヘヘ!
替玉:大げさな男や。先日もね、私は三越の屋上へ行ってきたんです。あそこはまさに「天空の楽園」ですな。
九蔵:ほう、屋上! あのアドバルーンを追いかけて行ったんですか。
替玉:子供やないんやから。屋上へ行くには、あの「垂直の馬車」……エレベーターに乗らなあかん。
九蔵:あれ、不思議ですなぁ。箱の中に入って、じーっとしてたら、勝手に空へ運んでくれる。僕なんか、胃袋だけ一階に置いてきたような変な気持ちになりますわ。
替玉:それは君の腹が空いとるだけや。それで屋上に着くと、パッと視界が開ける。下を見れば市電が豆粒のように走っとる。
九蔵:ええなぁ! 豆粒の市電。つまんで食べたら、電気の味がしそうですな。
替玉:アホなこと言いなはんな。屋上にはね、音楽が流れて、噴水があって、さらには「温室」まであって珍しい花が咲いとる。
九蔵:へぇー! 泥靴履いて行ったら、お花に怒られそうですな。
替玉:それだけやない。あそこには「木馬」や「回る乗り物」があって、子供たちが遊んどる。私も一つ、木馬に乗ってみようかと思ったんやが……。
九蔵:替玉さんが木馬に! 袴の裾をバタバタさせて。そら、お馬さんも「重たいわ!」って鳴きはりますよ。エヘヘヘ!
替玉:ほっときなはれ。しかし一番の驚きは、屋上の「大食堂」ですわ。あのハイカラな雰囲気。
九蔵:お、出ましたな! 僕は花より団子、屋上よりライスカレーですわ。
替玉:君は食うことばっかりや。あそこのライスカレーは、銀の器に入って、真っ白なエプロンをした給仕さんが運んでくる。
九蔵:ええなぉ。あのライスカレーの上に載ってる、赤い福神漬け。あれが夕日に見えて、拝みたくなりますわ。
替玉:拝んでどうする。私が食べてたら、隣にハイカラなモボが座ってやね、「給仕さん、ソーダ水を一杯。あと、このカツレツをミディアムで」なんて気取っとる。
九蔵:ミディアム? 何です、そのお化けみたいな名前は。
替玉:焼き加減のことや。そしたら給仕さんが私の方を見て、「お客様は何になさいますか?」と。
九蔵:そこで替玉さん、ビシッと言ったんでしょうな!
替玉:ああ。「私は……このライスカレーを『大盛り』で」と。
九蔵:……全然ハイカラやない! 結局、お腹空いてただけやないですか。
替玉:いやぁ、でもね九蔵君。あの屋上から大阪の街を眺めていると、「これからは空の時代や」という気がしますな。
九蔵:空の時代。僕もいつか、あのアドバルーンにぶら下がって、お家まで帰りたいですわ。
替玉:そんなことしたら、通報されますわ。
九蔵:エヘヘヘ。さいなら。
(二人、深々とお辞儀)
替玉・九蔵:どうも、失礼いたしました。

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