林君の家族は、見ず知らずの異国の地からやってきた私を、本当に温かく親切にもてなしてくれた。
聞けば、お母さんは少し病弱なため、普段は外に出て仕事をすることが難しいらしい。その代わりと言ってはなんだが、大黒柱であるお父さんには、極めてユニークで、かつ少々スリリングな「特殊技能」があった。なんと、そこら辺の市場で買ってきた普通の大根をナイフで巧みに削り上げ、まるで超高級品の「高麗人参(朝鮮人参)」そっくりの形に仕立て上げるという、驚異の彫刻技術の持ち主なのだ。
……いや、ちょっと待ってほしい。それって、見方によっては立派な詐欺罪か何かの違法行為にあたるのではなかろうか。
まあ、細かい大人の事情はあえて深く突っ込まないことにしておこう。確かにここ延辺地区の巷の市場や土産物屋では、伝統的に本物の高麗人参が数多く売られている。それらをよく観察してみると、どれも実に綺麗な人型(ひとがた)のシルエットをしており、それ自体が一種の芸術品のようで見事なものだ。なるほど、お父さんはあの複雑に入り組んだ「ひげ根」の絶妙なリアリティを、日夜大根を相手にストイックに追求しているわけだ。偽物とはいえ、その職人技の域に達した細工技術には、思わず拍手を送りたくなってしまう。
そもそも、本物の高麗人参がもたらす健康効果というものは、現地では文字通り「絶大」であると信じられている。滞在中、林君からこんな奇想天外な逸話を教えてもらった。
ある日、村のヨボヨボだったおじいさんが、運良く手に入れた立派な高麗人参を丸ごとガブリと食べたのだという。すると、その直後からおじいさんの身体から凄まじいエネルギーが満ち溢れ、何を血迷ったか、極寒の真冬の屋外へと飛び出していった。しかも、衣服をすべて脱ぎ捨てた完全なる「素っ裸」の状態で、である。先述した通り、吉林省の冬の寒さは半端ではない。マイナス25度や30度がデフォルトの世界だ。常人であれば、そんな環境で裸になった瞬間に凍死の危険に直面する。ところがそのおじいさんは、あろうことか全身から湯気のような汗をダラダラと噴き出しながら、雪の積もる凄まじい銀世界を狂ったように全速力で走り回っていたのだという。
もはや健康を手に入れたというよりは、別の危険なスイッチが入ってしまったのではないかと心配になるが、現地の人にとっては、これこそが高麗人参の持つ「尋常ではない生命力の爆発」を証明するエピソードなのだそうだ。

しかし実際のところ、それほどの神がかり的な効能を持つ野生の「天然高麗人参(山参)」が手に入ることは、現地でも非常に稀らしい。それもそのはずで、ターゲットはたかだか30センチメートルほどの長さの、地中に埋まったただの「根っこ」である。地元の専門の採掘者たちは、一攫千金を夢見て、それこそ目を血眼にしながら険しい山林を探し回っているのだ。それでも、1年で見つかる数はほんのわずかだという。まさに大自然が隠した究極の宝探しである。それゆえに、市場に出回る本物は目玉が飛び出るような高値で取引されており、だからこそ我が友・林君のお父さんの「大根細工」のようなニッチな需要(?)も生まれるわけだ。
ちなみに、この神秘の植物は、現在の日本でも一部の地域で「薬用人参」として大切に栽培されているらしい。日本の技術で育てられたその姿を、私もぜひ一度この目で見てみたいものだ。
もし日本製の優秀な高麗人参が流通し始めたら、今度は「本場の朝鮮の土地で育ったものでなければ、あの裸で走り回るほどの絶大な効果は出ない!」などと、朝鮮半島側から猛烈なクレームが入るかもしれない。しかし、そこは職人気質の日本人である。ひとたび本気で品種改良に着手すれば、本場のクオリティをあっさりと凌駕するような、さらに凄まじい栄養価を秘めた「スーパー高麗人参」を完成させてしまうのではないだろうか。
もしそんな日本版の化け物人参が完成し、日本の冷え性に悩むおじいさんたちが食べようものなら、今度は日本の冬の温泉街あたりで、全身から汗を流しながら笑顔で爆走する元気な高齢者たちが続出することになるかもしれない。そんな愉快で少し恐ろしい未来を想像しながら、私は林君の家族が淹れてくれた温かいお茶をすすり、彼らの尽きないお喋りに耳を傾けていた。


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