戦後の混乱期、ラジオから流れる彼らの軽妙なしゃべくりは、人々の沈んだ心をパッと明るくする魔法のような力を持っていました。
猪突さんの「インテリ風なのに、言うことはめちゃくちゃ」なボケと、猛進さんの「勢いのある江戸前」のツッコミ。戦後の闇市や物価高を笑い飛ばすような、エネルギッシュなネタをお届けします。
漫才:発明王への道
猪突: (眼鏡をクイッと上げて)えー、あー。エロ事師……いや、発明家でございます。
猛進: どっちなんだよ。まどろっこしいな。何を発明したんだ。
猪突: いやね、猛進さん。今の世の中、何でもかんでも「足りない、足りない」って言うでしょ。
猛進: そりゃそうだよ。米は足りない、服は足りない、金もありゃしない。
猪突: だから私、この「足りない」を逆手に取った、画期的なシステムを開発しましてね。
猛進: 画期的なシステム?
猪突: 名付けて「透明人間養成ギプス」です。
猛進: ほう。それを着ければ、姿が消えるのか。
猪突: いえ。それを着けて闇市を歩くと、周りの人が全員「透明人間」に見えるんです。
猛進: ……それ、ただのお前の目が霞んでるだけだろ! 自分が消えなきゃ意味ないんだよ。
猪突: いや、相手が見えなければ、こっちは堂々と歩けるでしょ。「いない、いない」と思えば、警察官だってただの電信柱ですよ。
猛進: 捕まるわ! 柱が手錠かけてくるか! もっとまともなのはないのか。
猪突: ありますよ。これからの食糧難を救う「エア・ビフテキ」。
猛進: エア?
猪突: お皿の上に、ビフテキの「思い出」だけを乗せるんです。
猛進: 食べられないじゃないか。
猪突: 皿を前にしてね、目を閉じて「ああ、あの昭和10年の銀座の味だ……」と念じる。すると、あら不思議。お腹は膨らみませんが、涙だけは溢れてきます。
猛進: 腹が減るだけだろ! 夢のないこと言うなよ。
猪突: 夢といえば、私は最近「言葉の配給制度」というのも考えてましてね。
猛進: 言葉まで配給かよ。
猪突: ええ。みんな無駄口を叩きすぎる。だから「おはよう」は月に3回まで。「バカヤロー」は週に1回、大切に使う。
猛進: 窮屈だなぁ。じゃあ、今のお前のめちゃくちゃなボケはどうなるんだ。
猪突: 私の場合は、特別に「無駄口特権」を申請してますから、こうして垂れ流しでございます。
猛進: 贅沢な特権だな! もういいよ、お前の発明は全部「無駄」だ!
猪突: えー、あー。左様でございますか……あ、これは人のネタだった。
二人: どうも失礼いたしました!
解説
猪突さんのボケ: 「エロ事師」などのとぼけた自称や、理屈をこねくり回して結局「何もない」ことに着地する、戦後特有の虚脱感と笑いをミックスさせました。
猛進さんのツッコミ: 当時の切実な悩み(闇市、食糧難)を代弁しつつ、猪突さんの浮世離れした発想にテンポよくツッコむ形にしています。
戦後の「何もかもないけれど、笑いだけはある」という、猪突・猛進さんらしいカラッとしたナンセンスさを感じていただければ幸いです。

コメント