ときどき…いるよね。こんな人

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 うららかな春の光が差し込む街の片隅。私はいつものようにスーパーの片隅にある宝くじ売り場へと足を運び、密かな楽しみであるロトのくじ券を購入した。その手には、先日迎えた特別な日の名残である、誕生日ケーキの甘い記憶がまだ微かに残っている。
口の中に広がるあの生クリームの余韻に誘われるように、銀座コージーコーナーのショーケースを目指して歩を進めていた時のことだった。
 ふと視線を移すと、そこには色鮮やかな「物産展」の特設会場が催されていた。
 棚には、昔懐かしいお煎餅や、香ばしいおこしといった、日本の伝統を色濃く残す菓子たちが所狭しと並んでいる。どうやら「5袋で千円」という特売を行っているらしく、賑やかな手書きのポップが目を引いた。その中に、艶やかに煮詰められたお多福豆を見つけ、私は思わずそれを手に取り、まじまじと眺めていた。

 その時、すぐ傍らから、ある客と店員との奇妙な会話が耳に飛び込んできた。
 声の大きさ自体はごくありふれた日常の音量だった。しかし、客の男は終始、顔にどこか薄気味悪い薄笑いを浮かべ、一方的に言葉を投げかけている。店員は四十歳前後と思しき女性で、清潔なエプロンを身に纏い、帽子を深く被っていた。彼女は商品を袋に詰め、手渡そうとしながらも、明らかにその表情には困惑と嫌悪の色を浮かべている。
 対する客は、五十代後半とおぼしき、眼鏡をかけた風采の上がらない男だった。
 男は店員に向かって同じ言葉を何度も繰り返しているようだったが、最初のうちは周囲の雑音に紛れてよく聞き取れなかった。三回目あたりで、ようやくその発せられた言葉の輪郭が私の耳に届いた。しかし、届いた言葉の意味は、あまりにも唐突で、支離滅裂なものだった。
(この男は、精神の調子を崩している人なのだろうか。きっと、そうに違いない……)
 わざわざその言葉の意図を分析するのも愚かしいほどに、それは他愛もなく、そして不条理な問いかけであった。何より、懸命に接客をしているあのおばちゃん店員が、ひどく可哀想に思えてならなかった。

会話の始まりは、どこにでもある穏やかな買い物の風景だったはずだ。

「すいませんが、この菓子をお願いします」
「ありがとうございます。5袋で千円になりますね。袋にお入れしますか?」
男は懐から千円札を差し出しながら、店員に応じた。
「お願いいたします。いやあ、大分陽気も暖かくなりましたね。見れば、早咲きの桜はもう散り始めていますよ。もう三月も中盤ですから、これからはお花見が楽しみですね」
「そうですね。ここのお菓子を片手にお花見なんて、とても素敵じゃないですか」
「それは良いね。その頃になったら、また買いにきますよ」
店員は愛想よく微笑み、袋に詰めた菓子を手渡しながら言った。
「はい、ちょうど千円頂戴いたします」
しかし、ここから劇場の幕が上がるように、空気は一変した。
男は商品を手に取りながら、脈絡もなくこう告げたのである。
「ところで……私はバキュームカーの運転手をしています」
あまりにも唐突な告白に、店員は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で戸惑った。それでもプロとしての理性が働いたのだろう、彼女はすぐに調子を合わせるように言葉を返した。
「それは……大変なお仕事ですね。いつも臭い中、本当にご苦労様です」
だが、男が求めていたのは、そんな世間一般的な労いの言葉ではなかった。客はお金を完全に手放さぬまま、ぬっと顔を近づけ、店員の瞳を覗き込むようにして問いかけた。
「バキュームカーは、臭いですか?」
店員は言葉に詰まった。何を試されているのか、何を答えれば正解なのか、目の前の男の意図が全く掴めない。沈黙が流れる。すると男は、堰を切ったように、機械的な口調で畳み掛け始めた。
「バキュームカーは臭いですか、バキュームカーは臭いですか、バキュームカーは臭いですか……」
 幾重にも重ねられる不気味なリフレイン。その異様な執着と、男の瞳の奥にある底知れぬ狂気を察知した瞬間、店員は恐怖に身をすくませた。もはや接客を続けることなど不可能だった。彼女は男から逃れるように、足早にレジの奥へと身を隠した。
 残された男は、店員が去ってしまったのを見届けると、何事もなかったかのように踵を返し、人混みの中へと消えていった。
 あの男は、ただ純朴な店員をからかって、その困惑する姿を楽しんでいただけなのだろうか。もしそうだとしたら、これほど悪質で、品性の下劣な愉悦の貪り方はない。春の温かな陽気とは裏腹に、私の心には、言い知れぬ冷たい不快感だけが澱のように残った。

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