3月8日の思い出

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ベトナムに駐在していた頃のことを振り返ると、日本人が現地に赴任する場合、ほとんどのケースで管理職としての立場を任されることになります。つまり、現地スタッフ、いわゆるローカル社員の指導や育成を担う役割を果たすことが求められるのです。日本人駐在員は給与水準も高いため、部下を食事に連れて行くことも多く、これはほぼ義務のようなものとして定着していました。

給与体系についても特徴的で、日本人駐在員は「ダブルペイ」と呼ばれる形で、日本本社からの給与と現地法人からの給与の両方を受け取っています。しかし、現地で支給される給与は生活費や交際費などで消耗が激しく、時には底をついてしまうこともあります。そのため、一時帰国の際に日本で資金を調達することがしばしばありました。こうした背景には、社内の人間関係を円滑に保つための、見えない努力が存在しているのです。

さて、ベトナムでは3月8日が「国際女性の日」として祝われており、企業や工場ではこの日に女性社員へプレゼントを贈ることが慣例となっています。私が勤務していた工場では、当時約300人の女性社員が在籍しており、その全員に対してプレゼントを用意する必要がありました。毎年プレゼントの内容を考えるのは手間がかかるため、定番としてシャンプーとコンディショナーのセットを選んでいました。

以前は洗濯用洗剤や食器用洗剤なども候補に挙がっていましたが、それではプレゼントとしての格が下がってしまうという意見が多く、あまり評判が良くありませんでした。中には「洗剤でも十分」という声もありましたが、全体的には不評だったため、現在の組み合わせに落ち着いたのです。

さらに、この日には女性社員のために花を贈るという習慣もあります。これは日本人管理職だけでなく、現地の幹部クラスの社員にも求められる行動です。意外なことに、ローカル幹部の方が気を配って、前もって花を準備してくることが多く、日本人は当日の朝に慌てて近所の花屋で購入するというパターンが目立ちました。

ただし、そこで購入する花は単なる花束ではありません。美しく装飾された大きなブーケで、価格にして4,000〜5,000円相当のものです。高さも60〜70センチほどあり、持ち運ぶには少々照れくささを感じるほどの存在感があります。そのブーケを手にして工場に入ると、女性社員たちの視線が一斉に集まり、嬉しさと恥ずかしさが入り混じった不思議な感覚に包まれます。

年に一度のイベントではありますが、こうした文化的な慣習を通じて、職場の雰囲気が和らぎ、社員同士の絆が深まるのを感じることができました。多少の手間や出費は伴いますが、それ以上に得られるものが大きいと実感しています。こうした経験は、異文化の中で働くことの醍醐味であり、今でも心に残る思い出のひとつです。

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